96条の件

現在憲法改正に必要な、各院の総議員2/3の賛成による発議、という条件を1/2に引き下げよう、という話題について気になったのでとりあえず新聞を調べてみた。

各社スタンス

96条改正に対して、朝日 *1・毎日 *2、東京*3 は反対のスタンス、産経*4 ・読売*5 は賛成のスタンスみたいだ。日経は特にどちらにも強く振れてはいない感じ*6

各社の言い分を前段の脚注のリンクから拾ってみる。

まず賛成の方からいくと、産經新聞は改正の発議だけで2/3の賛成が必要なのはハードルが高いといい、状況に応じて何度でも改正を図れるようなものであるべきだとしている。
読売新聞については、まあ同じなのだけども、最終的に改正の是非を決定するのは国民投票である以上、発議そのものの改正難度が高い必要はない、ということのようだ。
あと背景としてそもそもこの憲法改正論議の根底には日本人が自身で憲法を作ったことがなく、現行憲法GHQにより制定されたものであるという事実があり、そして現行憲法の改正難度の高さは、GHQが日本に民主主義が確立するには時間がかかると考えたのに由来するのではないかとしている。

反対の方については、朝日新聞は近代憲法がそもそも権力に縛りをかけるためのものであるとした上で、改正の発議が1/2の賛成で済めば一般の法規とほぼ同様に発議ができるようになり、それでは権力の歯止めの用をなさないとしている。
毎日新聞も同様に、憲法は権力を縛る役割があるという言葉を引き、また憲法を法律と同列に扱うのは法を縛るという憲法の役割に照らせば意味をなさないとする。また米国、ドイツでも改憲には両院の2/3の賛成が必要であり、改憲のハードルの高さと改憲の回数とは関係がないと指摘している。加えて態度の問題として、両院過半数の賛成で国民投票に付すことは、国民を納得させるようなコンセンサスの形成の放棄、代議制民主主義という仕組みの自己否定に繋がる危ういものだとする。

思うこと

ハードルの高さ(賛成率)はもちろんそもそも2/3と1/2のどちらかではなく、高いと改正の必要に迫られてもなかなか変えられず、低いと不安定になるというせめぎ合いのどこに最適な点を置くかという問題だけれども、自民党が59回も改憲していると引き合いに出しているドイツでも両院2/3が議決要件になっている以上*7、2/3という数字が不合理に高いとは素直に考えれば言えないだろう。ドイツの場合それでも平均して年1回くらいは改正している*8

押し付けられた憲法っていうのは感情の問題だしなあ、感情って馬鹿にできないけど。これは第何条を問題にしてるかでも話が違うだろうけども。


というかそもそも今回の場合はこのように憲法を改正したいというのが先にあって、しかし2/3という数は達成難しそうだからゆるめてしまえという話でしょう。その時々の政権が勝手なことをしないためにわざわざ2/3という厳しい条件が課されている訳で、そこの制限を先に外してから憲法を変えよう*9、というのは暴走に分類されざるを得ないのでは。


5/9 追記
国民投票がある分例えばドイツのそれよりも強いというのは確かにそうだし、上で国民投票について何も触れてないのは偏っていると取られても仕方ないかもしれない。こういうまとめもある http://togetter.com/li/491239 *10

個人的にはそれでも国民投票があるからといって必要な賛成割合を1/2に落とすのはあまり気に入らない。一応国会内でくらい2/3程度の賛成を取ってから国民投票かけてくれないとろくにコンセンサスがない状況下で国民投票が頻発しそうで面倒だ(というより、憲法の専門家でもない僕らがどこまで毎回毎回その変更により何が起こるか調べ考えて国民投票に臨めるというのか)、というのがあり、またそもそも構成員の間で議論が尽くされる保証のない国民投票という制度に相対的に強い権力を置いてしまうのは国の運営が不安定になりそうで嫌だ。そもそも特に普段から法の運用に関わっておらず、周辺の歴史も学んでいない大多数の人間はある程度議論が出尽くした後のコンセンサスを追認するぐらいの責任しか持つべきではないのではないか。議員をしているのであればある程度話をまとめる程度の仕事をしてからこっちに回してほしい。

あと、これを一番最初にやるというやり方やっぱりどうなの(そこか)。