下拵え

譜読みって言葉の意味をわかっていなかった。どうも僕は(ピアノに限らず)あいまいなところを残したくなってしまうのだが、それでは突き詰めるという行為ができない。いや、単純にゆっくり練習するこらえ性がないんだろ、と言われれば、まあその通りではあるのだけど。

人によっては見開きに6時間なんてざらだそうだ。鍵盤と鍵盤の間の感覚から何から全て指に覚えこませる。あせらず、曖昧な部分を残さないように、ゆっくり、ゆっくり。この作曲者、この和音が好きだな、とか、ここがこことつながっているのか、とか、演奏に必要不可欠な気付きはそんな回り道から生まれる。
譜読みが終わった段階で、指はベルトコンベアのように音の流れを生み出す。そうなるまでやる。
そうなったら今度はそうなった指の指揮者になる。神は細部に宿る。表現というのは基礎がしっかりしていないとある程度以上にはならない。
…まあたぶん真に音楽を愛する人にとっては本来あまりに自明なことなんだろうな。